NHK「ぼやき川柳大賞」を獲る方法

兵庫県のペンネーム落ちこぼれがボツ続きの体験を赤裸々に綴ります。

「ラジオ深夜便」でもついに大賞

 「ぼやき川柳」が第1~3金曜日午後11時台の「ラジオ深夜便」に移ったのは2019年4月だった。それまでは約100句が読み上げられて、6句前後が大賞に選ばれていたが、放送時間が短くなり、お題は二つから一つに減り、50句弱しか読み上げられなくなった。大賞も3句だけになった。がぜん競争率が上がって、読まれること自体が難しくなった。放送が深夜になったことで聴取者にも変化が起きた。「かんさい土曜ほっとタイム」で常連だった人が何人か離脱していった。代わりに新規参入を果たしたリスナーも多い。良くなったことは、よもや大賞を獲ると、3カ月後に月刊誌「ラジオ深夜便」に大西先生の寸評とともに載るようになったこと、聴き逃しサービス「らじる☆らじる」で放送翌日から1週間聴くことができるようになったことだ。

 当然、私の入選回数も激減した。3カ月に1回入選すれば良い方で、ボツの山が巨大になっていった。そう、番組移転後はもう大賞どころではなくなった。大賞は夢の夢になったのだ。

 やっと光明が見えたのは1年半後、コロナ禍真っ只中の2020年6月12日だった。ようやく通算18回目の大賞をいただいた。お題は「ドラマ」。私の句は「名作の分かっちゃいるがここで泣く」。

大西先生は放送中のコメントで「これ、ホントですよね。何回か見てええっと思うけど、やっぱりそのぐっと来るところは変わらないというね……」とおっしゃり、中村宏アナは「人情ものの落語、何回聴いてもおんなじところでほろっと来るんです」と応じ、大西先生が「やっぱりおんなじところで可笑しいしね」と締めた。

私は小津安二郎監督の世界的傑作「東京物語」の一場面を思い出してこの句を作った。戦争未亡人となった次男の嫁(原節子)に義父である笠智衆が「貴女ももう再婚してもらっていいのだよ」と言う。そこで原節子が「いいえ、私、ずるいんです」と答える名場面だ。私は何度も「東京物語」を見てきたが、この場面になると必ずボロボロ大粒の涙を流す。ストーリーはもう重々分かっているのにそんな自分に酔っているのである。この涙は一種のカタルシスであり、私のナルシシズムであろう。

3カ月後、大西先生もこの句が掲載された「ラジオ深夜便」10月号の寸評でこう書いてくださった。「あれって不思議ですよね、何度も見て分かっているはずなのに泣けてくる。そんな自分自身にも感動したりして」

とうとう喉から手が出るほど欲しかった「タイトル」を手に入れた。ラジオで音として全国に流れると、その一瞬だけ空気が緊張しているような快感が得られるものだが、文字として残るというのもこれまた格別のものがある。自分が趣味としてプリンターで印字して紙に残すことと、高名な先生に選んでもらって全国の書店で売られる雑誌に載ることはまったく似て非なるものだ。私はNHKサービスセンターから送っていただいた掲載誌で飽き足らず、同じ掲載誌を本屋に行って自腹でもう1冊買った。スーパーのレジ近くで売られている様子を携帯のカメラで隠し撮りすることまでした。これが私にとっての「集大成」だった。