NHK「ぼやき川柳大賞」を獲る方法

兵庫県のペンネーム「落ちこぼれ」がボツ続きの体験を赤裸々に綴ります。

大西先生を取り上げた朝日新聞の夕刊

大西泰世さん 川柳作家(Who’s Who) 【大阪】 
 身を反(そ)らすたびにあやめの咲きにけり
 真ん中を蝋(ろう)が流れるまっぴるま
 なまめかしさの漂う作品である。一方で、
 月光に泡立つ死者の未来なり
 といった「死」を意識させる句の群れがある。
 これらの句集『こいびとになってくださいますか』(立風書房)がこの夏、宮城県中新田(なかにいだ)町の第一回俳句大賞に選ばれた。選考委員の俳人石原八束氏は「死からはじまってエロスの世界を引き出す。迫力がある」と評した。
 川柳の句集が、「俳句」を冠した賞を受けたのは、痛烈な皮肉ではある。だが、本人は「わたしの句は川柳です」と自説を譲らない。
 手と足をもいだ丸太にしてかへし
 プロレタリア川柳の代表作である。作者の鶴彬(つる・あきら)は特高に捕らえられ、一九三八年に二十九歳の若さで獄死した。しかし「世の中にほとんど知られていない」と嘆く。
 ほかにも「川柳」に命をささげた先人は数多く、時間のかなたへ埋もれていった人たちから響いてくる思いを少しずつ呼び起こし、未来へつないでいきたい、だからこそ、あくまでも「川柳」なのだと強調する。
 姫路市で生まれた。二歳で父を亡くし、「溺愛(できあい)してくれた」祖父も十一歳のとき、亡くなる。「死」をイメージした句が多いのは、生い立ちの影響かもしれない。
 川柳ではむろん食えないので姫路市内でスナックを経営。二年前、夫の詩人本庄ひろし氏の郷里、赤穂市に居を移し、夜は酔客を相手にカラオケのマイクも握る。
 九〇年、神戸山手女子短大の講師になり「スナックのママが大学の先生に」と話題になった。九四年から関西学院大でも講師を務め「川柳史」などを教えている。
 学生には「将来、失意や挫折を味わったとき、きっと川柳をつくることがあなたの支えになりますよ」と句作りをすすめる。
 (文・安村弘 写真・渡辺瑞男)
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 おおにし・やすよ 句集『椿事』『世紀末の小町』のほか『短歌 俳句 川柳
 一〇一年』(新潮、一九九三年)の川柳を担当した。47歳。
 (1996年9月30日 朝日新聞夕刊から)