NHK「ぼやき川柳大賞」を獲る方法

兵庫県のペンネーム「落ちこぼれ」がボツ続きの体験を赤裸々に綴ります。

音ですんなり情景を思い浮かべられるのが名句

ラジオ川柳をつくるときに一番気をつけることがあります。それはとても単純だけれども大事な心掛けです。「耳で聞いてとっさに情景を思い浮かべられる」句を目指すということです。日本語には同音異義語がたくさんあります。たとえば「きょうちょう」と言われても「協調」なのか「強調」なのか、「しじ」と言われても「指示」「支持」「師事」「私事」など、頭の中でいろいろな変換候補が必要になります。こういうふうに一瞬の変換の判断が必要になるのは、ラジオ川柳においてはすこぶる不利に働くことです。紙に印刷された句を目で見て瞬時に漢字を視覚としてとらえられるのとは訳が違います。耳から音として入って即刻、躊躇なく(誤変換もなく)情景が思い浮かべられ、かつ聞いている者を笑わせる句をつくるというのは存外難しいものです。大西泰世先生が平生から「日常使う平易な言葉で句をつくりましょう」といわれるのもそのためです。平易な言葉でできているからといって句が劣るということはありません。むしろ真理は単純なものです。平易な言葉にこそ真理が宿るとも言えると思います。以前のぼやき川柳で、誰の作品だったか「長男が嫁の実家で咲いている」というのがありました。音として無理がなく、一度聞いただけですんなり呑み込めます。それでいてクスッと笑えます。結婚した長男が嫁の実家で、わが家ではついぞ見せたことのないような笑顔を振りまいているのを見て、息子を取られたような気持ちになり、母親としてはちょっと気に障るという内容です。長男の結婚をあんなに喜んでいながらちょっとひっかかりを覚えるという母親の微妙な心理を衝いている名作だと思います。この句は長男というところがミソです。次男ではいけません。川柳の3要素である「穿ち」「軽み」「おかしみ」をすべて兼ね備えていながらじつに平易な表現である点に賛辞を送りたいと思います。