NHK「ぼやき川柳大賞」を獲る方法

兵庫県のペンネーム「落ちこぼれ」がボツ続きの体験を赤裸々に綴ります。

2012年、日本経済新聞の夕刊から

世を映す川柳(6)週1回、笑顔届ける、ぼやき声(広角鋭角)

2012/06/25  日本経済新聞 夕刊  

 毎週土曜日午後3時すぎ。決まったフレーズで番組は始まる。武器も持たない金もない、権力も持たない庶民の唯一の抵抗手段はぼやき川柳、ぼやせん――。
 NHK大阪放送局が制作しているラジオ第一「かんさい土曜ほっとタイム」の「ぼやき川柳」。名称は変わったが、開始16年、毎週の放送になって8年の長寿コーナーだ。毎週1500程度の句が寄せられる。
 「声に出して詠むとおかしみが一層分かる作品があります。ラジオ川柳の持ち味ですね」。番組の進行役を務める佐藤誠神戸松蔭女子学院大教授は話す。アナウンサーを定年退職してからも続投。選者で川柳作家の大西泰世さん、週替わりの女性パートナーとともに、茶の間で家族がしゃべって笑っているような雰囲気を醸し出している。
 公開放送となった16日のお題は「料理」と「湿る」だった。「ひと手間を片手間でする妻の腕」「失敗は創作料理と言って出し」。どんどん句が紹介される。
 「除湿機を『強』にして聞く妻の愚痴」の句に「うまいですねえ」と大西さん。なかなか採用されないぼやきを詠んだ句も毎週多く寄せられる。終盤、「罰ゲームなのかこの味この料理」の句が詠まれると、大きな笑い声がわき上がった。
 東日本大震災後、「ぼやき川柳」は不謹慎ではないかと危惧する声もあった。が、放送すると被災地から「いつもと変わらない声が聞けてホッとしました」という反響が寄せられた。普段も「家族で安心して聴ける数少ない番組」という評価が多く届くという。
 書き添えている一言で投句者の境遇がうかがえる。一人暮らし、笑うことの少ない生活、闘病……。全国のそんなリスナーが楽しみにしてくれている。「震災の後、笑いは自粛するんじゃなくて、むしろこんな時ほど必要なんだと思いました」。佐藤さんと大西さんは口をそろえる。
 結社に属さず人間の感性を表現した革新的な作品を詠んできた大西さんは、ぼやき川柳の選者を続けて川柳に対する考え方が変わったという。自身の感覚では「えっ!」と絶句してしまう作品が多く来る。最初は違和感があったが、「こんな句もいいじゃない」と許容範囲が広がったと話す。
 16日の公開放送では1月に東京の病院に入院し、その後退院したという山形在住のリスナーが来場、作品が紹介された。入院中も本で川柳を勉強していたという男性に佐藤さんは語りかけた。「川柳は生きる力になるということですね」
【図・写真】アットホームな雰囲気で番組は進む