NHK「ぼやき川柳大賞」を獲る方法

兵庫県のペンネーム落ちこぼれがボツ続きの体験を赤裸々に綴ります。

用意したもの

 川柳ほど安上がりな趣味はないのではないか。碁会所に通う囲碁や将棋と同じくらい安価な趣味だ。基本的には紙と鉛筆さえあればいい。俳句のように季語辞典が要るわけでもない。吟行に行かなくても川柳は作ることができる。極端な話、人は棺桶に片足を突っ込んでいても、(いまわのきわでも)川柳だけは作れるのだ。

そして「川柳作家」の肩書だが、資格審査はない。免許も要らない。そう名乗った瞬間から誰でも川柳作家になることができる。

私の場合はラジオ川柳から入ったのでラジオだけが最初に必要だった。けれど放送のたびに家にいるわけにもいかないので録音できるラジオを買い直した。ケンウッドのラジカセだった。1万数千円の初期投資をしたことになる。デバイスはSDカード。USBメモリーでも録音ができる機種だ。あとは出歩いているとき、とくに散歩しているときに川柳は名句(迷句)が思い浮かぶ傾向にあるので、携帯電話のメモ帳・メモ機能を活用した。自宅では紙の国語辞典も手元にあった方がいいだろう。ブックオフなど古書店に行くと古くても良い辞書が安く売られている。アマゾンで取り寄せるのもいい。もし電子辞書をお持ちであるならそれも強力な武器になる。あとはパソコンの検索サイトで類語辞典のようなサイトを開くことができるようにしておけばアイデアをひねり出すチャンスになる。もし入選してラジオで読まれたときはラジオ録音を再生し、スマホの「ボイスメモ」で音を録音して持ち歩いた。電車の中でイヤホンをして、自分の句が読まれた時の録音を再生して聴くのも「いとおかし」である。佐藤アナの読み上げる声、大西先生の笑い声、女性キャスターの反応、大西先生の講評などが生々しくよみがえる。わずか十数秒であってもその空気感が楽しい。まるでそこだけ空気が緊張しているかのように聞こえるから不思議である。よもや大賞でも獲ろうものならそこも録音を再生してスマホに再度録音した。「それでは今週のぼやき川柳大賞の発表です」と佐藤アナが高らかに宣言し、ファンファーレが鳴る。全国のリスナーが固唾をのむような気がする瞬間だ。「兵庫県の落ちこぼれさん」という声を聴くと、名状しがたい悦楽が全身に満ちあふれる。釣りに行って竿先にぐぐっと引きが来た瞬間のような歓喜がみなぎるのである。