NHK「ぼやき川柳大賞」を獲る方法

兵庫県のペンネーム「落ちこぼれ」がボツ続きの体験を赤裸々に綴ります。

リクエスト曲で名前を読んでもらう方法もあった

 「土曜ほっと」時代のぼやき川柳。お題からして、「今週、ぼやき川柳で読まれるのは難しいな」と判断したときは、午後3時25分ごろ、句の読み上げをひと休みしてかける音楽のリクエストをするという形で名前を読んでもらう手があった。例えばお題が「ハンカチ」だったとすると、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」をリクエストする。お題が「卒業」なら、柏原芳恵の「春なのに」をリクエストするといった戦略。なりふり構わぬ入選狙いだ。曲のリクエストをする方が、全国からの応募者が少なくて名前を読まれる確率が高かった。

 リクエスト曲で名前を読まれるだけでは残念、不本意、勝負に出ていないという向きには、毎月第3土曜日にNHK大阪放送局1階のBKプラザで行われる公開放送へ出陣するのがお勧めだった。午後1時前から100人ほどを収容するスタジオにチケットなしで入れた。入場しようとすると生放送ということもあって配置された警備員の目が気になる。私は怪しい人物ではないよというそぶりをしてみる。スタッフから投句用紙と競馬場で見るような簡易の鉛筆(「ペグシル」というらしい)が配られる。その日のお題2題に沿って1句ずつ書き、スタッフに手渡す。それが舞台裏で選句しながら待機している大西先生に直接届く仕組みだ。

 午後3時5分、全国ニュースが終わるといよいよ「ぼやき川柳」の生放送が始まる。全国から応募してきた人の入選句の紹介は50句前後。一息つくと、「ここからはこの公開放送の会場に来てくれてはる人の句の紹介ですよ」と佐藤アナが言う。「『〇〇県の△△さん』(ペンネーム可)。どちらにいらっしゃいますかあ」と会場を見渡す。「はい」と手を挙げた人にスタッフ(NHKのアナウンサー)がマイクを持って走る。佐藤アナが「行きますよ」と気合を入れ、2度その入選句を読み上げる。会場に笑いが起こる。佐藤アナが「これはどういう場面を思い描いて作りましたか」などと質問する。マイクを向けられた当人は、自分の声が会場に反響しながら、しかも全国に流れているということにどぎまぎする。5秒以上黙っていると放送事故になるので何がしか思いつくままたどたどしく答える。声が震える人もいるし、「まあテレビと違って顔は映らないから」と開き直ってしゃべる人もいる。そこで佐藤アナが大西先生に振る。「どうですか、大西先生、この句は?」。大西先生は選ばれた人に「川柳は初めてですか?」などと質問する。「はい」と答えると、「初めてにしては大変お上手ちゃいますか。とくに■■という表現が洒落ていますね」などと講評。このようにして3人前後が会場から選ばれ、なごやかな雰囲気になる。

 やがて4時が近づき、ぼやき川柳大賞の発表となる。会場に来ていた人の句も必ず選ばれる。もともと「競争率が低い」ので選ばれる確率が高いのだ。「あの人の句が選ばれた」ということで親近感が湧いて会場も盛り上がる。選ばれるとその場でNHKのネックストラップなどの記念品をもらえる。ネックストラップをくれるアナウンサーは全国ニュースや音楽からぼやき川柳に戻るタイミングを5秒、4秒、3秒、2秒、1秒、キューと指でカウントしてゴーサインを出したり、佐藤アナや女性アシスタントにカンペを出したりと八面六臂の活躍をしながら黙々と裏方に徹している。放送事故を起こしてはいけない生放送ならではの緊張感がつぶさに見て取れる。